第五話 いそぎんちゃく

3.手


 ”はぁはぁ……”

 月並みな喘ぎを恥ずかしく感じつつ、アメパンは女の乳に顔を埋める。 淡雪のような肌が頬に吸い付き、名残惜しげに

離れていく。 その感触だけで、魂が抜けていくような心地よさだ。

 ”ほぁ……あ……いく……”

 股間に、絞り取られるような快感を感じ、アメパンは、いってしまったと思った。

 『んふ……まだいってないわよ?』

 ”へ?”

 自分のモノに目をやると、女の腹の上で醜い芋虫のようにくねくねと動いていた。 しかし、精を出した様子は無い。

 ”へんだな……たしか……?”

 『外に出すなんてだめ……さぁ……おいで……』

 女の手が彼自身を捕まえた。 それだけで、甘い痺れが彼を包み込む。

 ”うっ……なんて……おっ”

 女がアメパンのモノを、女陰に導いた。 ネットリと濡れた女の襞がモノに巻きつく感触がアメパンを襲う。

 ”こ……これは……あ”

 ジュルジュルジュル……

 やたらに粘る愛液が、秘所からあふれ出してアメパンの竿を濡らす。 その愛液は、竿を伝ってアメパンの腰を濡らし、

腰から尻、尻から足へと流れていく。

 ”し……痺れ……き……”

 『どう?……気持ちよーくなってこない?』

 そう言って、女は足をアメパンの腰に絡め、器用に腰から尻を愛撫する。 

 ”おぅ……”

 女の言うとおりだった。 イチモツどころか、腰から下、愛液で濡れたところが蕩けそうだ。 女の腿に腰の後ろを弄られると、

尻の辺りがジンジンして、中身が溶けていくような錯覚に陥る。

 ”す……すご……いっ?”

 アメパンの声が跳ね上がった。 女が愛液をすくい、アメパンの背中にべったりと塗りつけ、いやらしい手つきで愛撫し始めたのだ。

 『うふふ……ほーら……感じる?……』

 女はアメパンの体に両手両足を絡みつかせ、愛液を塗りたくっていく。

 ”ひぃ……ひ……ひ……ぼぁ……”

 アメパンは女の中で、自分のモノが無数の襞に絡みつかれているのを感じた。 えもいわれぬ妖しい快感がモノから伝わってくる。

 ”いく……いく……”

 モノが喜びにヒクヒク蠢いている。 いつもなに、とうに果てているはずだ。 しかし、今日はいっこうに果てる気配が無い。 

高まり続けるだけの快感に、アメパンはもともと乏しい思考力を失って、快楽を貪るだけの生き物になっていく。

 ”いい……いい……蕩けそう……”

 『そうよ……もうじき……貴方はそうなるの……』

 女の呟きに、アメパンは意味を考えることも出来ずに頷くだけだった。


 「け、げーじん! 毛唐の女じゃと!」

 「は?……ああ、外人の女ね」


 若者達と老漁師は、焚き火にあたりながらどこから、どうやって流れ着いたかを話していた。 その中で、若者の一人が岩場に

いた金髪女の事を話したその途端、老漁師の顔色が変わった。


 「ほ……ホロホロと奇妙な声をだす裸の金髪女……」

 「じーさん、興奮すんなよ。 心臓に悪いぜ」 若者の一人が下卑た笑いを漏らす。

 「ば、ばかこくねぇ! そ、そいつはひ、人でねぇ! い、『いそぎんちゃく』じゃぁ!」

 「は?」

 若者達はきょとんとした表情になり、お互いに顔を見合わせた。 そして、老漁師にうす気味悪げな視線を投げかける。

 「なぁじーさん、耳大丈夫か? 言葉つうじている?」

 「馬鹿にすんねぇ!」 老漁師は側に置いてあった銛をつかみ、いきりたって立ち上がった。 若者達は、後ずさりして距離をとった。

 「あぶねぇよ! じーさん、銛をおけって」

 老漁師は若者達をにらみ付ける。

 「いいか、おめえら。 そいつはな、『いそぎんちゃく』ゆう妖しよ。 『いそぎんちゃく』はな、女子の姿をして男を誘い、咥え込むのよ」

 「はぁ……そんなお化け聞いたことが無いぜ」

 「お前らが物を知らんだけじゃ! ええか、『いそぎんちゃく』はえらく具合がええ。 だもんで、咥え込まれた男は馬鹿みたいに

やりまくるんじゃ。 ところがじゃ、いくらやってもな、いっかないかんのじゃ」

 「……あ?」

 「えーと、なに? 『いそぎんちゃく』とやると、気持ちが良くて止まらなくなる。 だけど、射精しない?」

 「お前よく判ったな?」

 「おう。 去年くたばったじー様も訛りがひどくて」

 「しかし、まぁそんな化け物なら願ったりかなったりだ。 ひとつ、俺らも相手してもらうや」

 若者達は下品な笑い声を上げた。

 「ばかこくでねぇ! いいか、『いそぎんちゃく』に捕まったが最後、もう止められなくなるんじゃ。 最後はあまりの心地よさに、

体が溶けてしまうんじゃ」

 「は?」

 「溶けて、とろろ汁みたいになって、『いそぎんちゃく』の餌食になるんじゃ」

 「へー……そいつは恐ろしいねぇ」

 「いやまったく、ボクちゃん漏らしちゃいそう」

 ゲタゲタと笑う若者達。 老漁師は彼らを再びにらみつけた。

 「こん馬鹿共が! そこにいんどれ!」

 老漁師は彼らを怒鳴りつけると。 銛を構えなおし、海岸目指して小走りに走っていった。

 「あーあ、いっちゃった」

 「どっちが馬鹿だよ。 ありゃこれだ」

 誰かが頭の上で手を広げてみせると、他の者も馬鹿にした笑いを浮かべる。 しかし、一人が真顔で心配を口にする。

 「なあ、じーさんの銛は本物だろ。 ほっといていいのか、じーさんあの女を殺しちまうぞ」

 「関係ねーだろ」

 「でもなぁ、あーいうのを止めなかったら、後で警察に捕まるんじゃなかったけ」

 一人が言うと、さすがに皆笑いを止める。

 「アメパンもいるし、止めたほーがいいか」

 「ちぇっ、めんどくせぇな」

 若者達は、しぶしぶながらも老漁師を止める為にその場を離れる。

 「じきに、暗くなるかな」

 一人が手ごろな海草を、辺りに転がっていた木の棒(老漁師の物らしかった)に巻きつけて松明にし、焚き火の火を移した。

 「お前、器用だな」

 若者達は老漁師を追った。

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